なぜチームの生産性があがらないのかと悩んでいませんか。チームの人数が増えるほど、1人当たりの生産性が低下していくことをソーシャル・ローフィング(社会的手抜き)といいます。

 社会的手抜きが発生すると、組織として成果をあげることが困難になってしまうでしょう。 今回は、ソーシャル・ローフィングを防止し、組織の生産性を向上させる方法について解説します。

ソーシャル・ローフィングとは、社会的手抜きのこと

ソーシャル・ローフィングとは、集団で作業を行う場合、個人で作業するよりも1人あたりの生産性が低くなる集団思考です。分かりやすくいうと、「自分ひとりぐらい力を抜いても大丈夫だろう」と考える集団心理現象をいいます。

ソーシャル・ローフィング(Social Loafing)の意味

ソーシャル・ローフィングは、社会的手抜きや社会的怠惰などと訳します。直訳すると「だらだら仕事をする」という意味です。

  • Social(ソーシャル):社会的な・社会的に関する
  • Loafing(ローフィング):だらだら仕事をする・ぶらつく

ソーシャル・ローフィングと同じ意味の用語

社会的手抜きであるソーシャル・ローフィングは、その他にも次のように呼ばれます。

リンゲルマン効果

社会的手抜きの実験で有名なリンゲルマンの名前をとって「リンゲルマン効果」と呼ばれています。

フリーライダー現象

フリーライダー現象は、自分の能力が低いと認知した場合に他者に頼る現象です。

傍観者効果

傍観者効果は、自分以外の傍観者がいる場合は、率先して行動を起こさない心理効果をいいます。

ソーシャル・ローフィングに関する実験

リンゲルマンの綱引き実験

フランスの農学者マックス・リンゲルマンは集団作業時のひとりあたりのパフォーマンスを数値化する実験を行いました。
綱引き実験の結果、集団の存在が、個人の出す力に悪影響を及ぼすことが証明されました。1人の時の力量を100%とした場合は次の通りです。

【綱引き実験の結果】 
綱を引く人数出す力力量1人100%全力2人93%⇩3人85%⇩1.5割ダウン4人77%⇩5人70%⇩3割ダウン6人63%⇩7人56%⇩8人49%⇩5割ダウン

米社会心理学者ビブ・ラタネの心理実験

ビブ・ラタネは、「みんなと一緒に作業している」と思わせるだけで、個人のパフォーマンスが低下することを実験で明らかにしました。個人で単独で作業していても、集団心理が働くことにより、個人の努力量は下がってしまいます。

社会的手抜きは、メンバーがそれほど多くなくても「大人数だ」と思うだけで発生することが、心理実験により判明しました。

企業におけるソーシャル・ローフィングの例

業務中のネットサーフィン

マイナビの調査によると、約4割の会社員が業務中にネットサーフィンをしていることが分かりました。業務中に必要だからという回答もありますが、暇なときにやっているという声もあります。ネットサーフィンは、個人よりも部署など、集団での成果を評価される会社員だから起こりやすいと言われています。
参考:マイナビニュース「業務中のネットサーフィンは約4割」

会議で誰も発言しない

「会議で企画のアイデアを出したいけど、誰も積極的に発言してくれない」ということはよくあることでしょう。大人数で会議を行うと、集団心理が働きます。「誰かが意見を言ってくれるだろう」という心理が働きます。

プロジェクトのタスクが進まない

主体的にタスクを進めて欲しいのに、お互い遠慮して進歩が進まないということもありませんか。人数が多くなるほど、「誰が・なにを・どうする」という部分があいまいになりやすくなる要因です。

ソーシャル・ローフィングはなぜ発生するのか「2枚のピザ理論」

なぜ、集団で業務を行う際に社会的手抜きが起こるのでしょうか。

社会的手抜きが発生しやすい原因

社会的手抜きが発生する状態は、次の4つの特徴があります。

  • 個人の作業について注目度が低い状態
  • ほかに優秀な社員がいた場合貢献度が低くなる
  • 個々の努力量にかかわらず報酬が変わらない
  • 特別努力したとしても評価される可能性が低い状態である
  • 人間の心理的に「誰も見ていない」と思うと、無意識に手を抜いてしまう集団心理が働きます。集団で仕事を行う場合、個人の存在が埋もれている状態となるため、社会的手抜きが発生しやすい状態です。

    2枚のピザ理論とは

    日本では、チームメンバーが多いほどより優れた成果が出せると信じられてきました。

    しかし米AmazonのCEOジェフ・べゾス氏は、プロジェクトに最適なチームの人数を4~8人だと提唱しています。社内のチームは、ピザ2枚を食べるのにちょうどいい人数が、チームとして最適という考え方です。べゾス氏は2枚のピザ理論を提唱し、世界トップクラスの企業に育て上げてました。
    Amazon以外でも、Google・Facebookも2枚のピザ理論を取り入れている企業です。少人数のチームの場合、役割や責任も明確なので、社会的手抜きが発生しにくいという状況をつくることができます。チームの人数が多くなると集団思考に陥りやすくなり「誰かがやってくれるから」「私には関係ない」などのマイナスに働くことが増加します。チームの人数が多くなると次のような状況に陥ります。

    • 一人一人の貢献度が下がる
    • 意思決定に関与しないメンバーが増える
    • 責任感がなくなる
    • チームの生産性の低下を招く

    メンバーを最適な人数にすることで、全員が責任を果たすため、チームの結束力も高まります。全員が同じ目標に向かって、団結することができる最高のチームを作る考え方が2枚のピザ理論です。

    ソーシャル・ローフィングに対してどう対処すべきか

    「では、チームのメンバーを減らせばいいのか」と考えるでしょう。しかし、ただメンバーを減らすだけでは効果がありません。チームリーダーや人事部門に求められるのは、「個々の成果を評価しつつ、チームを団結させること」が大切です。

    個人に対して働きかけることチームに対して働きかけることを工夫する必要があります。

    個人に対して

    ①一人一人を小タスクの責任者にする②貢献した内容を丁寧に確認する

    チームに対して

    ①チームの目標を魅力的に伝える②集団凝集性を高める

    個人に対して

    ①一人一人を小タスクの責任者にする

    「あなたはここの責任者ですよ」と業務に対する責任を明確にすることです。
    例えば、次のようなタスクを個人に働きかける工夫をしましょう。

    • 営業としてできそうなことをできそうなアイディアを会議で出して欲しい
    • コストダウンについてあなたは考えてください
    • あなたは品質管理の責任者ですよ
    • あなたはスケジュール管理の責任者ですよ

    タスクを小分けにして、それぞれが責任をもってもらうことがポイントです。

    ②貢献した内容を丁寧に確認する

    個人に対して小分けにした責任についてどういう貢献をしたかを確認することが大切です。
    例えば、貢献した内容を承認した声掛けを行うことも大切でしょう。

    • 営業のアイディアを5つも出してくれたね
    • あなたのおかげでスケジュールが遅れずに進んでいるね

    一人一人の貢献していることを明確にすることが、集団において個人のモチベーション維持につながります。人は社会的な生き物であるため、承認欲求が強い人が多いのは事実です。人から認められるならがんばれるけど、認められなければやる気が出ないものです。

    チームの多い組織で、手抜きが起こりやすい場合は、「個人に対して努力をよく認めてあげること」が手抜きを防ぐでしょう。

    チームに対して

    ①チームの目標を魅力的に伝える

    目標達成により得られる未来にメリットがあることを伝えることがポイントです。会社の意義と個人の意義を結び付け、目標に対してのモチベーションをあげるように伝える必要があります。
    例えば、次のようなメリットなど伝えるものいいでしょう。

    • 目標達成が社会貢献につながる
    • 売り上げ達成分の10%をチームに分配する

    ②集団凝集性を高める

    「自分たちは仲間だ」というチーム意識が働くと、社会的手抜きは起こりにくくなるでしょう。仲間意識が強まることで、メッセージや声掛けなどを行ったりすることが、社会的手抜き防止効果を発揮します。
    集団凝集性を高めるには次のような取り組みを促進することがポイントです。

    • 普段からよくコミュニケーションをとる(雑談する)
    • 自由に意見をいえる雰囲気をつくる
    • 飲み会や会食をする

    ソーシャル・ローフィングを防ぐ健康経営の促進

    「チームだからやって当たり前だろう」と思うかもしれません。しかし、思い出してください。学生の頃など、グループで行う行動を他人任せにしている人がいませんでしたか。

    大人でもそういうことは起こるわけです。「社会的な抜きは起こるものだ」という認識をもって、組織をマネジメントする必要があります。
    組織を率いていくのに最も重要なのは、チーム意識を高めることです。企業と従業員がともにコミュニケーションを深める手段として健康経営の推進をおすすめします。

    しかし、いきなり「チーム意識を高めよう」と言っても困惑してしまいます。これまでコミュニケーションが希薄だった職場ならなおさらです。
    健康というキーワードを軸に、これまで話す機会がなかった従業員同士のコミュニケーションのきっかけとなるでしょう。さまざまなセミナーや取り組みを通じで、会話の高まりが期待できます。さらに心身の健康が向上することにより、モチベーションアップにも寄与するでしょう。

    個人の成果を評価しつつ、チーム意識を向上させることでソーシャル・ローフィングを防ごう!

    今回はソーシャル・ローフィリング(社会的手抜き)について解説しました。集団で共同作業を行う際には、社会的手抜きが起こってしまう前提で組織を率いていく必要があります。
    社会的手抜きを防ぐには、個人の承認欲求を満たす働きかけとチーム意識を高めることが大切でしょう。

    今回の記事が、社会的手抜きを減少させ、自社の生産性向上のお役に立てていただければ幸いです。