デザインという言葉からは、個性や独自性、クリエイティビティが連想されますよね。

しかし意外にも、売れ筋の商品のデザインは「普通」であることが少なくありません。

今回は、ありきたりで退屈なデザインがなぜ人気になるのか、その秘密について解説します。

「普通」vs「奇抜」

基本的に、デザイナーは新しくて刺激的なものを作りたいと考えています。革新・クール・現代的なものを作ることを目指す反面、ありふれたデザインは避けられがちです。

しかし、インパクトのあるデザインのヒントは「普通」のなかに隠されています。

たとえばトヨタのカローラを見て、「ユニークで革新的」だと感じる人はあまりいないでしょう。カローラはありふれたデザインの代表格で、どこにでもあるような「普通」の車です。

▲出典:Wikipedia

これに対して、光岡自動車のオロチはとても個性的です。

スポーティーなシルエット、魚の口のようなグリル、あらゆるデザインが「私を見て!」とアピールしています。

▲出典:Wikipedia

ではなぜオロチではなく、カローラのほうを街中でよく見かけるのでしょうか。

答えは簡単で、カローラのほうが一般消費者に好かれているためです。

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「普通」なデザインの力

他のデザインとの違いは見る人にインパクトを与えますが、それが顧客を遠ざける原因にもなり得ます。たとえば先述のオロチは、好き嫌いがはっきりわかれる車だと言えるでしょう。

しかし、カローラは多くの場合「大好き」「大嫌い」といった強い感情を呼び起こしません。だからこそ、中年の男性、年配の女性、若者など、ありとあらゆる人がターゲットになります。

プロダクトデザインの目的の一つに、できるだけ多くの人を満足させるような製品を作ることが挙げられます。普通のデザインは「嫌い」という感情につながりにくいため、大多数の人が許容してくれます。

また、さまざまなユースケースに対応できることも、普通のデザインの強みです。たとえばトヨタのカローラは、ファミリーカーとしてだけでなく、タクシーとして、あるいは社用車としても活用できます。一方、オロチの用途は限られるはずです。

普通のデザインをつまらないと感じる人もいるかもしれませんが、普通のデザインは目にやさしく、親しみを感じさせます。プロダクトデザイナーとしてはユーザーを不快にさせないデザインをするほうが安全です。「普通」のデザインだからこそ、意識されないほど生活環境に溶け込めるのです。