労働者の睡眠を向上するには?

睡眠事情の改善には、「時間」と「質」の2つの要素があります。適正な睡眠時間には個人差がありますが、一般的には毎日7時間の睡眠が推奨されます。しかし、労働世代にとって毎日規則正しく寝る事は難しく、平日の睡眠不足を休日に取り返す方も少なくはないでしょう。

人間の睡眠の仕組みとして、寝不足に対して長時間睡眠で補う事は可能ですが、寝溜めは出来ません。また、寝過ぎるのも脳の疲労や血行悪化に繋がるため、やはり毎日規則正しい睡眠をとることがベストということになります。

このような睡眠時間の問題を解決するには、その発端となっている長時間労働問題へのアプローチが必要です。これには労働時間の把握と管理、新しい勤務制度や評価制度の導入、業務内容の見直しなどが含まれます。中には残業の事前申請やノー残業デーの導入など、制度として残業を減らす取り組みをする企業もあります。

睡眠の「質」に関しては、正しい知識を周知させる事が重要です。睡眠時間は日々規則正しく、また入眠前は身体を覚醒させる生活動作を避けるようにしましょう。

具体的には、入浴は1、2時間前まで、食事は3時間前まで、運動は3時間前までに済ませるとスムーズな入眠に繋がります。デジタル機器が発するブルーライトはメラトニンの分泌を減らすので、入眠前の使用は控えましょう。また、嗜好品も大切な要素で、喫煙は1、2時間、カフェインは4時間も覚醒効果が持続するので、寝る前似は控えるべきでしょう。飲酒をすると早く寝付く事ができるという話がありますが、一方で睡眠の質を下げてしまうため、結果として身体を休める事ができません。

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治療が必要な、不眠症と睡眠障害

睡眠の時間と質の改善策を行っても良くならない場合、治療が必要な可能性もあります。それが「不眠症」と「睡眠障害」です。

「不眠症」とは、入眠が困難(入眠障害)、途中で目が覚めて寝付けない(中途覚醒)、予定より早くに起きてしまう(早朝覚醒)の問題が週2夜、1ヶ月以上続き、日中も眠気や疲労感などの不調をきたしている状態を示します。不眠症は身近な問題であり、日本人を対象とした研究では実に5人に1人が不眠症であったと報告されています[3]。また、厚生労働省の2019年度の調査では7割の人が睡眠に問題があると回答しています[4]。不眠症で体調不良をきたす場合は治療が必要で、その内容は生活習慣の改善と薬物治療の2つが中心となります。

一方で「睡眠障害」とは、より睡眠問題をより広く解釈したもので、前述の不眠症に加え、睡眠時無呼吸症候群やナルコレプシー、夜間尿や歯軋りなど様々なものが含まれます。これらは原因も様々で、病態に応じた適切な治療が必要となります。

ここでは、睡眠障害の中でも重要なものとして、睡眠時無呼吸症候群をご紹介します。この病気は、睡眠中に呼吸が何度も止まったり、大きないびきをかいたりするのが特徴です。低酸素の状態が続くことで脳や心臓に負荷がかかり、中〜重症例では9年間の生存率が6割まで下がる危険な病気です[5]。また、日中も疲労感や強い眠気があり、突然の居眠りで事故を起こす事例が問題視されています。

睡眠時無呼吸症候群の治療は、生活指導から夜間の呼吸マスク(CPAP)やマウスピース、時に手術で原因を取り除きます。

以上のように、睡眠問題と一括りにしてもその中身は様々で、場合によっては治療介入が必要となります。自身の睡眠や体調を気にかけるのは勿論、職場内でお互いの様子に異変を感じた時は、速やかに受診を勧めるようにしましょう。