源泉徴収税を納める必要があるのは「報酬を支払う側」

源泉徴収は「誰かに報酬を支払う場合」の義務です。つまり、源泉徴収の義務があるのは「報酬を支払う人(発注者)」で、「報酬を受け取る人(受注者)」ではありません。これは支払う側が個人事業主でも対象になるので、フリーランスにも関係があります。

ただ、源泉徴収はそれなりに手間がかかるので、国税庁も「この条件をクリアしている発注者は源泉徴収をしなくていいですよ」という基準を発表しています。その基準は以下の通り。

  • 誰も雇用せず、誰にも給料を払っていないフリーランスが、何かしらの業務を外注する場合
  • 常時2人以下の家事使用人のみに対して給与の支払いをする場合

(参考:国税庁

後者は、分かりやすく言えばお手伝いさんを雇用している場合の話なので、多くのフリーランスに関係するのは前者の条件。つまり「ひとりフリーランスが発注者として外注費用を支払う場合、源泉徴収義務のある報酬でも源泉徴収しなくてOK」ということです。

源泉徴収義務を無視したらどうなる?

先ほど見たように、源泉徴収の対象業務はかなり複雑です。そのため、発注者のなかには「ホントは源泉徴収が必要なのに、間違えて徴収し損ねちゃったらどうしよう……」「考えるのもメンドくさいから、源泉徴収はしなくていいのでは?」と思う方もいるかもしれません。

結論から言えば、源泉徴収は「支払う側の義務」なので、報酬を支払う側が無視すると法律違反になります。もちろん違反にはペナルティも用意されており、悪質度に応じて以下のペナルティが課せられます。

  • 不納付加算税(税額5%割増):

    源泉徴収税を納め忘れたが、自主的に追納した場合
  • 不納付加算税(税額10%割増):

    源泉徴収税を納め忘れ、税務署に指摘されて追納した場合
  • 重加算税(不納付加算税に加えて税額35%割増):

    源泉徴収税を納めなくて済むよう偽装や隠ぺいを行い、税務署に指摘されて追納した場合

このように、義務を無視した場合のペナルティはかなり重大です。義務になっている業務の報酬を支払う際は、源泉徴収は必ず行うようにしましょう。

困ったら「全フリーランス源泉徴収」もOK!

「源泉徴収はめっちゃ複雑なのに、正確に源泉徴収しないと罰則がキツい!」と感じた発注者もいるでしょう。確かにその通りなのですが、源泉徴収にはある裏ワザが存在します。

それは、発注する際に「すべての外注先フリーランスへ支払う報酬から源泉徴収してしまう」というもの。つまり、いちいちフリーランスの業務ごとに源泉徴収義務があるかを確認せず、全員に源泉徴収義務があると仮定して源泉徴収してしまうという方法です。

この方法を使えば、事務手続きの手間を削減できるうえ、万が一の源泉徴収義務違反も起こりません。税務署は、納税額が少ない場合は鬼の形相でスッ飛んできますが、納税額が多い分にはなにも言わないため、税務上の問題もありません。

「そんなことしたら受注側のフリーランスが損をするだけじゃないか!」という意見もあるでしょうが、ご安心ください。払い過ぎた源泉徴収税は、受注者が確定申告をした後に還付金として戻ってきます。

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源泉徴収税の計算と納付の流れ【報酬を支払う側】

源泉徴収する側、つまり仕事の発注側は、給与から差し引いた源泉徴収税(正式名称は源泉所得税)を税務署へ納付する必要があります。

ここでは、発注側の源泉徴収税の計算~納付までの流れをまとめます。

ステップ1. 源泉徴収が必要か確認する

先ほども触れた通り、源泉徴収の必要がない報酬・ケースも発生してきます。

まずは、源泉徴収が本当に必要かを確認してみましょう。

ステップ2. 源泉徴収税額を計算する

先述したとおり、源泉徴収税は報酬額に応じて税率が変わる仕組みとなっています。具体的な計算式は以下のとおり。

報酬額 源泉徴収税額
100万円以下 報酬額×10.21%
100万円超 (報酬額-100万円)×20.42%+102,100

また、源泉徴収の仕組みは比較的シンプルなので、源泉徴収された金額からもとの報酬(源泉徴収前の報酬)を割り出すこともできます。

「いくら源泉徴収されたのか知りたい!」という受注者の方は、以下の式を使ってみてください。

手取り額 源泉徴収税額
897,900円以下 手取り額÷0.8979
897,900円超 (手取り額-102,100)÷0.7958

ステップ3. 報酬から源泉徴収額を差し引く

源泉徴収額が計算できたら、報酬を振り込む際に総額から差し引いておきましょう。

徴収を忘れると後が面倒なうえ、源泉徴収税の徴収を怠った際にペナルティを食らうのは、報酬を支払う側になります。

ステップ4. 所得税徴収高計算書を作成する

源泉徴収税は、報酬を支払う側が自分で税額を計算して税務署に支払うだけでは納付が完了しません。確定申告書のようなイメージで、「所得税徴収高計算書」を作成する必要があります。

ただ、国税庁の電子申告用システム『e-Tax』が整備されたことで、紙ではなく同システム上で「デジタル所得税徴収高計算書」を作成し、そのまま送付できるようになりました。

▲出典:e-Tax公式サイト

所得の種類によって様式が異なり、フリーランスへ報酬を支払うケースでは「報酬・料金等の所得税徴収高計算書」という様式を使用します。記入すべき内容は、おおむね以下の通り。

  • 支払い年月日
  • 税務署名
  • 人員
  • 整理番号
  • 徴収義務者の情報
  • 納期等の区分
  • 税額(納付すべき金額)
  • 本税(延滞金などが発生している場合、税額と差額が生じる)
  • 合計額

ステップ5. 源泉徴収税を納付する

報酬を支払う側が源泉徴収税を納付する方法は、以下のとおりです。

  • ダイレクト納付
  • インターネットバンキング納付
  • クレジットカード納付
  • コンビニ納付(利用は例外的なケースのみ)
  • 窓口納付

太字で記入した納付方法では、いわゆる「キャッシュレス決済」が可能です。この場合、徴収高計算書はe-Tax上で電子送付することになります。窓口納付では、税務署に徴収高計算書を持参して納付額とともに提出します。これで納付は完了です。

なお、納付には期限があり、原則は源泉徴収をした月の翌月10日までに所轄の税務署へ納付する必要があります。ただし、給与など特定の所得に限り「納期の特例の承認」を受けた場合は、

  • 1月から6月までの支払分: 7月10日
  • 7月から12月までの支払分:翌年1月20日

を納期とすることが可能です。