20代の頃から毎週コンスタントにコラムを書き続けるなど、執筆活動を長きにわたって続けているふかわりょうさん。近年、繊細でちょっとだけ面倒くさいふかわさんの日常を綴った『世の中と足並みがそろわない』などのエッセイ集が、以前にも増して話題になっています。そして2024年3月、17年ぶりとなる小説『いいひと、辞めました』を上梓。新著の内容に触れながら、昨今の世の風潮との折り合いの付け方、ふかわさんにとって心地よい仕事の仕方について、話を伺いました。(2024年3月インタビュー。全2回の連載。)

前編: 「多分、こっちじゃない」30歳のキャリア転換で見つけた自分の道【ふかわりょう】

誰もが持っている「B面」と、丁寧に向き合ってほしい

──コロナ禍以降、『世の中と足並みがそろわない』『ひとりで生きると決めたんだ』『スマホを置いて旅したら』とエッセイ集の発売が続いていただけに、新著の『いいひと、辞めました』は小説と伺って、驚きました。いい人なのにモテない主人公「平田さん」がクズになろうと奮闘するこの作品、いつ頃から書き始めたのでしょうか。

書き始めたのは2023年4月ぐらいです。その頃、時代の風向きによって、漠然とした頭の中のもやが去り、『いいひと、辞めました』っていうフレーズが浮かびました。頭の中に散らばっていた言葉が、一気に時代の渦に巻き込まれた感じです。

ここ数年の世の中の風潮や価値観に対する違和感と、小説に対するモチベーションが合わさって、僕の中でスイッチが入ったのだと思います。

──2023年だからこそ書けた小説なんですね。

そうですね。たとえば、才能の偏りというのは一つのテーマです。実際に小説にも書いていますが、世界に名を残した偉大な作曲家とかって、ひとたび私生活を覗くとまあまあ破綻しているわけなんですよね。それを知るたびに、いちいち「え?ショック!」って言う時代はもう終わってほしいなと。

僕からすると、偉大なものを生んでいるのであれば、皆さん、どこかに人間の偏りは大なり小なりあるわけで。破綻しているから、すごいものが生まれるんだと。そういう風に捉え方を切り替える節目になってほしいなあという思いが、僕の中にあるんです。

「ええ〜!そんな人だと思わなかった」ではなく、「ああ、こういう側面があるから我々はあのオイシイ果実を享受することができたんだ」と。人間は誰しも表に出ているA面と、裏のB面がある。いつまでも人のB面に驚いているのは、解釈として愚かだと思うんです。

もちろん才能ある人は何をしてもいいだなんて思ってないですよ?でも、ショッキングな出来事が起きるたびに、もうびっくりしないでほしい。「まあ、そりゃそうだよね」って、むしろ腑に落ちてほしいくらいです。

誰しもが持つ「このB面をどうしましょうか?」って、落ち着いて考えないと。これからはそういった出来事に丁寧に向き合う社会になってほしいなっていう。この作品は、僕の投げかけでもあります。

ほかにも、いい人であることが足を引っ張るという真理だったり、クズになろうとしても意外となれないぞということだったり。小説を構成するモチーフはいくつもあるんですけど、10年前だったら違うモチーフになったと思います。そういう意味で、今の時代だからこそ生まれた作品だと思いますね。

──実際に書き上げてみて、感じたことはありますか?

さっきのA面、B面にも通ずる話なんですけど。これはちょっと過激な表現になりますが、僕は音楽という居場所がなかったら、タレントとして破綻していたかもしれないです。アウトなものに手を伸ばしていたかもしれないし。だから音楽で表現したり、執筆することで、多分バランスを取ってきたんだと思います。

──ふかわさんは1990年代に、ピチカート・ファイヴの小西康陽さんと音楽ユニット「ロケットマン」を結成し、後にソロ・プロジェクトの「ROCKETMAN」として現在も音源制作を続けています。クラブDJとしても活動されていますね。

実は先日、『いいひと、辞めました』のサイン会をした時に、東京国際フォーラムで1999年に行ったピチカート・ファイヴのライブを観た人が来てくれたんです。

当時、僕はまだまだ出たての25歳で、お笑い芸人の印象しか抱かれていなかった。会場のピチカートのファンの人はアンコールで小西さんが出てきて、ステージ上のグランドピアノを弾くのだと思ったら、白いターバンを巻いた僕が突如出てきて。ピアノの印象もなかったから、小西さんの思惑通り、大喝采を浴びることになりました。

その時代を牽引するアーティストと一緒の舞台に立てていることが、何より貴重な経験ですし、あれから25年経って、そのステージを観ていた方が僕のサイン会に来てくれることがうれしいですよね。

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人生は「何を思い、どう動き、誰と出会うか」

──ふかわさんの目の前に、キャリアに迷う20代のビジネスパーソンがいるとしたら、今、なんと声をかけますか?

僕は、仕事にやりがいが必ずしも必要だとは思っていないんですね。「やりがいはないよりあった方がいい」と言う人もいるんですけど、僕は、それすら思ってもいなくて。仕事は仕事と割り切って、やりがいを仕事に求めないスタイルも全然アリだと思うんですよ。

仕事は確かに大事です。でも人生の全てじゃないですから。たとえ居心地の良い場所にたどり着いたとしても、居心地の良さがずっと続くこともない。いずれにせよ、自分の決断は正解だと信じて突き進んだ方がいいと思います。

──「居心地の良さがずっと続くことはない」というのは、歳を重ねるにつれて、仕事で求められることが違ってくるからでしょうか?

そうですね。お笑いタレントである僕自身も、やはり20代、30代、40代で求められるものは違っていました。もちろん芸能界には、一貫して同じことを貫く職人タイプの方もいます。でも僕は、年齢や環境によって、自分の出しどころを変えてきました。それをブレと捉える人もいるかもしれませんが、求められる環境に合わせて仕事をしてきたという点で、僕は一貫しているつもりです。

ただそうやってタレントとして生きるにあたり、脇で筋トレのようにずっと続けていたのが執筆と作曲、DJでした。もしかすると、そういう 自分の心が踊ることを長く続ける方が、仕事上のテクニックよりも大事なんじゃないかなと思います。

一方で、筋トレとして密かに続ける地道な努力が、人生の中でどう芽が出るかは、自分の力でどうにもならないことです。かなり前ですが「人生はこれで決まる」と確信したことがありました。それは、 「何を思い、どう動き、誰と出会うか」 です。

自分がどんなに鍛錬しようが、結局誰かと出会わないことには結実しません。その出会いも、やっぱり普段から自分がどういう意識を持っているかで決まってしまう。

例えば僕なら、「ポスト出川」と言われたところから舵を切って、MCを意識した時に自分の考え方と共鳴する人と出会った。もしかすると「ポスト出川」と言われて、僕が「はい、わかりました」と言ったら言ったで、また別の島に漂着していたかもしれないですけど。 でもその運命は誰にもわからない。僕が自分で決めたから、今の島に流れ着いた。

転職というとちょっと大げさかもしれません。でも僕は確かに30歳で舵を切って、芸能界の中で転職に近いことをしたのかもしれません。

プロフィール

ふかわりょう

1974(昭和49)年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学在学中の20歳でお笑い芸人としてデビュー。長髪に白いヘアターバンを身につけた「小心者克服講座」でブレイク。「あるあるネタ」の礎となる。以降は『内村プロデュース』(テレビ朝日)などのバラエティ番組を経て、『5時に夢中!』(TOKYO MX)でMCとして地位を確立。現在は『バラいろダンディ』(TOKYO MX)でMCを務めている。また20代から続くDJや音楽活動のほか、2024年4月から新たに『ロケットマンショー』(Fm yokohama)が開始。小説『いいひと、辞めました』(新潮社)を2024年3月に上梓。その他の著書に『スマホを置いて旅したら』(大和書房)、『ひとりで生きると決めたんだ』『世の中と足並みがそろわない』(新潮社)、アイスランド旅行記『風とマシュマロの国』(幻戯書房)がある。

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前編: 「多分、こっちじゃない」30歳のキャリア転換で見つけた自分の道【ふかわりょう】

取材・文: 横山 由希路
編集・撮影: 求人ボックスジャーナル編集部